
◆ 1. トピック概要|TSMCが熊本の第2工場建設を延期
2025年6月4日、世界最大のファウンドリー企業・TSMC(台湾積体電路製造)が、熊本県に計画していた第2工場の建設着工を延期する方針を明らかにしました。
本来は2025年初頭に着工予定でしたが、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)は、アメリカのトランプ政権による半導体関税の圧力を受けて、TSMCが米国内への追加投資を優先していると報じました。
◆ 2. 背景にある“トランプ再登場”と米国第一主義
トランプ政権(2025年1月再登場)は、再び「米国第一の製造回帰政策」を強力に推進しています。
特に半導体については:
- 輸入半導体に関税を課す圧力
- 米国内生産能力の強化要求
- 補助金・優遇税制の強化
という三段構えの政策をTSMCやサムスン、インテルに対して行っており、TSMCは米アリゾナ州に3つ目の工場建設に着手しています。
👉 TSMCは総額1,650億ドル(約26兆円)の米国投資計画を発表済み
◆ 3. 日本への影響|TSMC第2工場はどうなるのか?
❖ 延期の理由(表向き):
- 交通量の問題(地域インフラが整っていない)
❖ 延期の“真の理由”(WSJ報道):
- 米国からの政治的・経済的圧力により、資本と人材が米国拡張に優先されている
- 日本の補助金や支援よりも、米国の圧力と市場性が勝っている
❖ 今後の可能性:
- 完全中止の兆候は今のところ見られない
- しかし「数年単位の延期」や「建設規模の縮小」に発展する可能性あり
◆ 4. 投資家目線で見るこのニュースの意味
✅ 【注目ポイント①】サプライチェーンの“アメリカ回帰”が加速
TSMCが米国に6つのウェハー工場+2つのパッケージング拠点を作る構想を進めているということは、今後の最先端半導体の主戦場がアジア→北米にシフトするリスクを示しています。
➡ 日本国内の半導体回帰政策(ラピダスなど)にとって逆風
➡ TSMC第2工場への期待感が剥落すれば、地元経済にも打撃
✅ 【注目ポイント②】日本政府の補助金政策に“限界”の兆し
- 日本政府は、TSMCの熊本進出に約1兆円近い補助金を計画
- しかし、**最終的な投資判断は「補助金」より「米国の圧力」や「市場の大きさ」**に左右されることが明確に
これは、今後他の外国半導体メーカーにも波及する可能性があります。
✅ 【注目ポイント③】日本の半導体関連銘柄への影響は?
特に影響を受ける可能性がある日本企業:
銘柄 | 主な事業 | 影響予想 |
---|---|---|
ソニーG(6758) | イメージセンサー | 米国拠点での需要偏重に注意 |
SCREEN HD(7735) | ウェハ洗浄装置 | 日本工場延期で短期的にマイナス |
ディスコ(6146) | ダイシング装置 | 日米拠点での設備投資動向に左右されやすい |
アドバンテスト(6857) | 半導体検査装置 | TSMCの投資先変更に敏感に反応する可能性 |
◆ 5. TSMCの戦略と“地政学リスク”の現実
今回の延期は、TSMCの戦略変更というより、「地政学の激流」による外圧です。
- アメリカは「自国の半導体供給網」を確保するため、あらゆる手段を講じている
- 台湾有事リスクも背景にあり、TSMCが米国に“脱台湾依存”の生産ラインを移そうとしている
TSMCにとっても、これはリスク分散であり“サバイバル戦略”に他なりません。
◆ 6. 投資家としてどう動くべきか?
✔ 長期視点で見ると…
- 米国は引き続き半導体製造の覇権争いの中心地になる
- 日本は“後工程”(パッケージングや装置、材料)での競争力を強化する必要あり
- ラピダス、キオクシア、東芝など国内主導の半導体戦略が焦点に
✔ 短期投資なら…
- 半導体設備関連銘柄は一時的な調整局面に入る可能性
- 一方で、米国に工場を持つ企業(インテル、アプライドマテリアルズなど)には追い風
◆ 7. まとめ|「米中対立」→「米日乖離」へ?日本の針路は?
今回のTSMCの動きは、単なる工場延期ではなく、**「トランプの復権による世界経済の重心シフト」**を象徴する出来事です。
- 日米が“同盟”でありながら、経済政策は必ずしも一枚岩ではない
- 今後の日本の産業戦略には、「米国一極依存」のリスク管理がより重要になるでしょう
◆ おわりに|日本の半導体復活は試練の時を迎えた
TSMCの熊本第2工場は、「日本半導体復活の象徴」とされてきました。
しかし、世界のパワーバランスは、日々変わり続けています。
このニュースは、単なる一企業の方針変更ではなく、「国家間の経済圧力」「地政学リスクの現実」「企業の生き残り戦略」という多層的な文脈を含んでいます。
私たち投資家も、目の前の“株価”だけでなく、その背後にある**戦略的地図(グランドストラテジー)**を読む目が求められているのかもしれません。
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